セミナーレポート
QoL向上のためのメディア認識・理解技術東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 山崎 俊彦
本記事は、画像センシング展2019にて開催された誰にでもわかる特別講演を記事化したものになります。
>> OplusE 2019年7・8月号(第468号)記事掲載 <<
保育環境の見える化とフィードバック
AIとIoTを絡め,我々の研究室でやっている事例をいくつか紹介します。私自身は,研究室で研究開発した技術をどのようにすれば世の中の役に立てることができるのかということに興味をもっており,そうした研究の1つに,保育環境の「見える化」とそのフィードバックがあります。多くの保育園や幼稚園,子ども園にご協力いただき,保護者や保育者の皆さまの同意を得,倫理審査も通した上で,保育現場にカメラ・センサーを入れ,IoTセンシングを実施しました。それにより,「監視」ではなく、安心・安全で質の高い保育・幼児教育の実現や,保育者の職能開発の支援などができることを目指しています。最初に,保育園にIoTセンサーを設置し,空気環境を測定し,「見える化」するようにしました。保育園は厚生労働省が管轄していますが,一般オフィスを含めた建築物環境衛生管理基準によれば,例えばCO2は1000 ppm以下にすることが決められています。これは映画館の中くらいの濃度で,1000 ppmを超えると敏感な方は不快感や頭痛が起きると言われています。同様にして,幼稚園は文部科学省の管轄で,CO2は1500 ppm以下,湿度30%以上などのいくつかの基準があります。湿度30%を下回ったら,インフルエンザなど感染性の病気が広がりやすくなってしまうと言われています。
測定では,タバコの箱を3箱重ねたくらいの大きさのセンサーシステムを手作りし,クラウドサーバーに自動的に送信するシステムを導入しています。実際に測定してみると,多くの園で国の基準が満たされていない時間帯があることがわかりました。朝,子どもたちが集まり走り回ると,すぐにCO2濃度は1000 ppmを超えてしまいます。夕方のお遊戯時間には3000 ppmを超えます。38部屋を測って1000 ppmを超えなかった部屋はありませんでした。1500 ppmを超えた部屋が87%,なかには5000 ppmを超える部屋もありました。最近の部屋は気密性が高く,冬に暖房を使うと,湿度も基準を満たさなくなります。こうした状態を「見える化」し,スマートフォンなどに異常を知らせるアプリの開発を現在進めています。
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東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 山崎 俊彦
東京大学工学部電子工学科卒業。東京大学工学系研究科電子工学専攻修了。博士(工学)。現在,東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻准教授。
マルチメディア処理,画像認識・理解,機械学習,最適化などの基礎的な研究のほか,人が感じる「魅力」の予測・解析・増強などを行う「魅力工学」の研究を行っている。