セミナーレポート
画像センシングからみたAI 技術への期待オムロン(株) 技術・知財本部 技術専門職 諏訪 正樹
本記事は、国際画像機器展2017にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
オムロンの画像センシングの商品開発事例
オムロンの画像センシングの例を紹介します。東京モーターショーでも発表した,ドライバーモニタリングの画像センシングです。2016年に,ドライバーがどれくらい運転に集中しているかをレベルの指標で出力する「ドライバー運転集中度センシング技術」として発表しました。ここで使われているセンシングは,判断の部分に時系列のディープラーニングが入っており,Black-Box型の構成になっています。2017年には,認知,判断,操作の3段階にもとづく,より高度な機能をアウトプットするドライバーモニタリングの画像センシングシステムを弊社で開発しています。ディープラーニングに代表されるAI技術が進展し,センシング技術の中にも取り込まれ,これまでになかった性能を生み出しています。AI技術は基本的にBlack-Box型モデル化の範疇ですが,技術はブラックボックスになってはいけないと言われてきた考えを改め,それは果たして悪なのかについても慎重に考える必要があるとも言えます。一方で,センシング技術の性能向上,いわゆるAI技術のパフォーマンスを上げるためには,そこに入れるセンサーの出力の質がカギになります。センサーにはAI技術だけに頼っていては困難な「物理世界の切り取り」という重要な役割があります。
私自身,2001年に画像型交通流センサーを開発していました。これは,路上に設置し,車の台数や速度,ラフな車種を出力するものです。カメラ2台のステレオカメラで,人間の目のように奥行距離を計算することができます。従来の単眼のカメラを使ったセンサーに比べ,車両検知の大幅な性能向上を実現させました。今なら大量のデータを集めることができれば,ディープラーニングにより当時のセンサーを凌駕するものができますでしょうし,もし「車両検知性能を極限まで高める」ことにひたすら注力していいのであれば,間違いなくディープラーニングを活用すると思います。
しかし,当時を振り返ると,センシング性能向上に向けて人間が設計するメリットとして,高々103オーダーの画像データがあればアルゴリズム設計には十分であるということがいえます。さらに,センサーの物理計測に明るさの情報に加えて距離の情報を入れることでモデル化が容易になったこと,センシング対象・環境の網羅性の検討が容易なこと,デバイス(カメラ)の進化・変化に対するスケーラビリティが高いこと,アルゴリズムで何をしているかが明確であること,などが挙げられます。特に,画像データさえ入手できれば,車両検知ミスの原因がほぼ確実にトレースバックできるというのは大きな顧客価値だと考えています。
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オムロン(株) 技術・知財本部 技術専門職 諏訪 正樹
1997年 立命館大学理工学研究科博士後期課程修了。同年オムロン(株)入社。入社以来,画像・光センシングの研究開発に従事。博士(工学)。2010年より奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 客員教授兼任。2013年より九州工業大学 生命工学研究科 客員教授兼任。