セミナーレポート
3次元測定システムの精度評価および不確かさ評価東京大学 名誉教授 高増 潔
本記事は、国際画像機器展2021にて開催された特別招待講演を記事化したものになります。
>> OplusE 2022年5・6月号(第485号)記事掲載 <<
測定不確かさの必要性と,CMMの測定不確かさ
3次元で複雑な製品の設計・加工・計測は,日本を含めた世界の産業界のものづくりに欠かせません。測定・検査・校正においては,不確かさが評価できないと合否が決定できません。例えば,100 mm±0.1 mmの製品の合否を決める場合,99.9~100.1 mmにできていれば合格になります。しかし,測定には誤差があります。この測定誤差を不確かさと言いますが,不確かさを無視すると,不合格を合格にする危険があります。合否を安全に決めるためには,この不確かさ分だけ合格範囲を狭くする必要があります。測定不確かさが±0.02 mmならば,99.92~100.08 mmを合格とすれば,安全に合否を決められます。公差の範囲が測定不確かさの分だけ狭くなるのです。不確かさと産業の関係では,不確かさが公差に比べて十分小さい場合には,不確かさを考慮しなくてもいいのですが,そうでない場合は不確かさを正しく推定する必要があります。過小推定されると不合格品を出荷することになり,リスクになります。一方,過大推定すると合格部品を不合格にすることとなり,経済的損失になります。リスクが大きい製品は,不確かさを過小評価しないようにし,厳密に合否を決める必要があります。一方,大量生産する製品は,不確かさを適切に推定し,全体の利益を考慮して合否を決めるような,経済性に配慮した判定が必要になります。
3次元で複雑な機械部品の検査では,3次元測定機(CMM)などが必要になりますが,不確かさの評価は難しいです。その要因としては,CMMの運動誤差や,プロービングシステムの誤差,温度などの環境,測定物の材質,測定物の形状誤差などがあるからです。特に,測定点の位置などの測定戦略による不確かさ評価は重要です。
CMMの測定不確かさの推定には,多くの方法が提案され,利用されています。GUM(計測における不確かさの表現のガイド)に基づいて実験および計算で求める,理論的な誤差伝搬で求める,計算機シミュレーションによる不確かさ推定(ISO 15530-4)や,比較測定による不確かさ推定(ISO 15530-3,JIS B7443-3),マルチ測定戦略による不確かさ推定(ISO 15530-2)などの方法があります。
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東京大学 名誉教授 高増 潔
1982年 東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻 博士課程修了(工学博士) 1982年 東京大学工学部精密機械工学科 助手 1985年 東京電機大学工学部精密機械工学科 講師 1987年 東京電機大学工学部精密機械工学科 助教授 1990~1991 英国ウォーリック大学 客員研究員 1993年 東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻 助教授 2001年 東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻 教授 2020年 東京大学 名誉教授