画像センシングの最前線
三次元計測の原理と光の性質広島市立大学 日浦 慎作
1.はじめに
画像によるセンシングというと,多くの方はRGBカラーカメラによる対象の撮影と,それにより得た画像を処理するアルゴリズムの組み合わせによるシステムをまずは思い描かれるだろう.しかし現在多くの画像センシングに用いられているカメラは,その多くが「センシング」,つまり対象の画像から何らかの情報を得るために生まれたものではなく,デジタルカメラやビデオカメラのように対象の画像・映像を単に記録し,後に鑑賞するための技術を元にしたものが多い.例えば赤・緑・青の3原色は人間の視覚系を模倣したものであり,光の連続的なスペクトル分布に比べると大幅に情報量が少ない.つまり得られた情報を再び人に見せるためにはよいが,このようなカメラが素材の識別や鮮度の判定などの画像処理に向いているとは限らない.同様のことは,対象物体の「形」に関するセンシングにおいても言える.そもそも物体の形に関する情報が欲しいのに,カメラは対象物体の「明るさ」に関する情報しか出力してくれない.我々人間は脳内の高度な処理により極めて汎用的な視覚系を実現しているが,同様の視覚系を作ることは,人間並の知能を持つコンピュータがいまだ夢物語であるのと同様にまだまだ実現することは難しい.やはり工学的には,それぞれの目的にぴったり合ったセンシング手法を構築するほうが近道であり,形に関する情報が欲しいのであれば,直接的に(明るさではなく)対象物体の形が得られるセンサを用いるほうがよいのである.
ここでは,そのような対象物体の形を計測する三次元計測法について,光の性質を交えながらその原理について今一度整理してみよう. <次ページへ続く>
広島市立大学 日浦 慎作
1972年生.1993年大阪大学基礎工学部制御工学科飛び級中退,1997年同大大学院博士課程短期修了.同年京都大学リサーチアソシエイト,1999年大阪大学大学院基礎工学研究科助手,2003年同助教授.2010年広島市立大学大学院情報科学研究科教授.2008-2009年マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員准教授.三次元空間の画像計測と反射現象・表面質感の解析,コンピュテーショナルフォトグラフィ等の研究に従事.1993年電気関係学会関西支部連合大会奨励賞,2000年画像センシングシンポジウム優秀論文賞,2010年情報処理学会山下記念研究賞,2012年MIRU優秀論文賞等受賞.電子情報通信学会,情報処理学会,日本バーチャルリアリティ学会各会員.博士(工学).